大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)261号 判決 1992年6月26日

反訴原告

野村邦和

反訴被告

木村浩也

主文

一  反訴被告は反訴原告に対し、二五六万四九五九円及びこれに対する平成二年三月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を反訴原告の、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告(以下被告という)は反訴原告(以下原告という)に対し、三二七万六九五九円及びこれに対する平成二年三月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、左記一1の交通事故の発生を理由として、原告が被告に対し民法七〇九条に基づき損害賠償を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成二年三月二三日午後七時三五分ころ

(二) 場所 名古屋市瑞穂区二野町九―一六先路上

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 原告所有・運転の普通乗用自動車

(五) 態様 加害車両が、渋滞のため停止していた車両列の最後尾の車両に追突して順次玉突衝突を起こし、二台前にいた被害車両がその直後の車両に追突された。

2  被告の責任原因

被告は、前方注視を怠つたまま進行した過失により本件事故を惹起した。

3  損害の填補 六万円

二  争点

被告は、主として次の点を理由に損害額を争つている。

(被告の主張)

1 原告の治療及び休業には、既往症である腰椎ヘルニアが影響を与えており、人身損害のうち三割については、本件事故との因果関係がない。

2 本件事故により被害車両のマフラー関係の部分が損傷したことは否認する。

第三争点に対する判断

一  原告の損害

1  治療費(請求も同額) 五四万四三二〇円

甲四ないし甲八、甲九の一・二、証人西本幸正、原告本人によれば、原告は、本件事故により頚椎挫傷、頭頚症候群、胸椎挫傷、腰部挫傷の傷害を負い、その治療のために平成二年三月二三日から同年七月一一日まで西本病院に通院して治療を受け(通院実日数七七日間)、この間の治療費として五四万四三二〇円を要したことが認められる。

これに対し被告は、既往症である腰椎ヘルニアの治療費と本件事故との因果関係を争うが、甲九の一・二、甲一七、証人西本幸正によれば、西本病院では、既往症である腰椎ヘルニアの治療については、平成二年三月二四日以降前示の交通事故による他の部位の治療と区別し、健康保険を利用して治療しており、その治療費は、右認定の治療費額中に含まれていないものと認められる。したがつて、被告の右主張によつて前示認定が左右されるものではない。

2  休業損害(請求も同額) 五二万七八〇二円

前示認定の治療経過、甲一〇の一・二、乙二、証人西本幸正、原告本人によれば、原告は、本件事故当時マサヤ石油株式会社に給油所所長として勤務していたが、本件事故による前示傷害のため平成二年三月二四日から同年四月二〇日まで欠勤を余儀なくされ、同年四月分の給与のうち四二万三三六二円及び同年夏期賞与のうち一〇万四四四〇円、合計五二万七八〇二円を減額され、同額の損害を被つたことが認められる。

これに対し被告は、腰椎ヘルニアによる休業分は、本件事故との因果関係がない旨主張するが、証人西本幸正、原告本人によれば、原告の休業は、もつぱら前示の頚椎挫傷、頭頚部症候群に起因するもので、腰椎ヘルニアは、殆どこれに寄与していないと認められるから、右主張を採用することができない。

また被告は、本件事故による夏期賞与の減額分は甲一〇の二に記載の三万七八〇〇円であると主張するが、同号証の「加減額マイナス三万七八〇〇円」の内容は、油外収益加減額、人事考課及び人事評価による加減額を合計したものであり、この点に照らすと、右金額が直ちに本件事故による減額分を意味するものとは解せられず、前示認定を左右するものではない。

3  通院慰謝料(請求六七万円) 五五万円

原告の受傷部位・程度、治療経過・期間等を勘案すると、右金額が相当と認められる。

4  車両修理費(請求一〇五万〇八三七円) 六四万二八三七円

(一) 排気系統関係

甲一四、乙一、乙四の一ないし三、乙五、証人鈴木剛、原告本人によれば、本件事故により被害車両の排気口が後方から押され、この結果その前方に接続していた排気系統全体に衝撃が加わり、同車両は、リアマフラーが損傷し、これとキャタライザーとの接続部がずれ、エギゾーストマニホールドとキャタライザーとの取付部も変形して排気漏れを起こすなどの損傷を受けたことが認められる。

これに対し、証人近藤貞夫は、キャタライザー及びその前方に接続するエギゾーストマニホールドの損傷を否定する趣旨の証言をするが、乙四の一ないし三、乙五、原告本人によれば、近藤証人が被害車両を確認した平成三年一一月二六日当時、エギゾーストマニホールド及びこれに関連する部分は、原告においてすでに修理ずみであつたことが認められ、この点を看過したと考えられる右証言によつて、前示の認定が左右されるものではない。

また甲二には、排気系統の損傷の記載がないが、近藤証人自身も、被害車両のマフラーカッターやリヤマフラーに損傷のあつたことは認めており、甲二はこれらの部分に衝撃が加わつていることを見落として作成されたことが明らかであるから、やはり、前示認定に影響を及ぼすものとはいえない。

(二) トランクパネル関係

証人鈴木剛は、本件事故により被害車両のトランクパネルが損傷した旨証言し、乙一にもこれに沿う記載があるが、反対趣旨の証人近藤貞夫の証言も勘案すると、直ちにこれらを採用することはできず、他にトランクパネルの損傷が本件事故によることを認めるだけの証拠はない。

乙一では、トランクパネルの脱着・板金工賃として合計八〇〇〇円が計上されており、また証人鈴木剛によれば、塗装費用一五万円のうち一部はトランクパネルに損傷がなければ不必要であると認められるから、後示の修理費用の計算に当たり、右工賃八〇〇〇円と右塗装費用の三分の一である五万円とを控除するのが相当であると認められる。

(三) 全塗装関係

原告は、全塗装の必要性を主張するが、直ちにその必要性を認めるに足りを証拠はない。

(四) その他の損傷及び修理費用の総額

甲二、乙一、証人鈴木剛によれば、被害車両は、本件事故により、前示の排気系統の損傷のほか、リヤバンパー、リヤフェンダー、トランクフロアー等に損傷を受けたことが認められるところ、乙一に計上されているこれらの箇所の修理費用は、前示のトランクパネル関係の分を除き、大筋で妥当な金額であると認められる。

乙一では、全塗装を含まない被害車両の修理費用は合計七〇万〇八三七円と計上されているから、これから右(二)のとおり五万八〇〇〇円を控除した六四万二八三七円をもつて本件事故と相当因果関係のある修理費用と認めることができる。

5  代車料(請求一八万四〇〇〇円) 七万円

争いのない修理期間七日間につき、国産車級の代車の費用として一日当たり一万円をもつて相当と認められる。

6  格落損害(請求三五万円) 六万円

甲一六の三によれば、被害車両は、昭和六〇年三月初年度登録のBMW社製普通乗用自動車であるところ、前示の修理内容に照らせば、同車両には、修理完成後も車両寿命の短縮や転売価額の低下等の事態が発生するおそれがあるから、この点でいわゆる格落損害の賠償を認めるのが妥当であると考えられるが、被害車両の初年度登録時期、修理内容等を勘案すれば、その金額は、前示認定の修理費用六四万二八三七円の約一割に当たる六万円が相当と認められる。

7  損害の填補

以上の損害の合計は、二三九万四九五九円であるところ、これから原告が支払を受けたことに争いのない六万円を控除すると残額は二三三万四九五九円となる。

8  弁護士費用(請求三〇万円) 二三万円

本件事案の内容・経過、認容額等を勘案すると、本件事故と相当因果関係のある部分としては、右金額が相当であると認められる。

二  結論

以上の次第で、原告の請求は、被告に対し右損害の合計二五六万四九五九円及びこれに対する本件事故発生の日である平成二年三月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 夏目明徳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例